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六月大歌舞伎 夜の部 2007.6.3 [歌舞伎]

昼の部の「侠客春雨傘」を幕見した後、夜の部の開演まで時間があったので、三越まで夕ご飯のお弁当を買いに行く。
食いしん坊の私はデパ地下がとっても好き。
けれどさすがにまだ風邪が完治していないので食欲もあまりなく、あまりヘビィなものではなく軽いお弁当を買った。
夜の部のお席は3階東2列20番。
「船弁慶」の平知盛の出と引込みだけの為に取った東袖のチケットだ(笑)。

 

●元禄忠臣蔵
・御浜御殿綱豊卿
浅野内匠頭が吉良上野介に斬りつけ、切腹してから一年。
次期将軍と噂される徳川綱豊(仁左衛門)の周囲では、関白近衛家から輿入れした綱豊の御台所を始め、浅野家再興を促す声が日に日に大きくなっている。
再興よりは浪士による吉良の仇討ちを密かに願う綱豊は、政治顧問の新井勘解由(歌六)に相談してわが意を得、さらに御祐筆(秘書に相当する職掌)江島(秀太郎)の案内により訪れた、中臈お喜世(芝雀)の兄で浪士のひとり富森助右衛門(染五郎)の言動から、彼らに仇討ちの意志のあることを確信する。
その夜、御殿で催される能の演者として現れた吉良に槍で討ちかかる助右衛門だったが、吉良だと思った相手は綱豊卿だった。


昨年の国立劇場の通し狂言で、3年前の8月に歌舞伎座でも拝見している「御浜御殿」。
特に3年前のものは今回助右衛門を演っている染五郎が初役で綱豊卿を演じていて、私が染五郎の歌舞伎を観た初めての演目だったというのもあり、個人的には実に想い出深い作品だ。

幕開きでの腰元たちの綱引きが楽しい。
なんだかテレビ・ドラマの「大奥」を観ているみたいだった(笑)。

徳川綱豊卿の仁左衛門、酔った風情での出が何とも色っぽい…
お召しになっているお衣装の色が、昨年の梅玉や3年前の染五郎のものと若干違っているように見えるのだけれど。
確か鶯色だったと記憶しているのだけれど、今回の仁左衛門の着ているものはもっと明るい新緑を思わせるような萌葱色だ。
その色目が仁左衛門にピッタリと似合っている。
彼の綱豊卿は何とも落ち着いた風情で若々しさこそあまり感じられないが、のちに将軍になる器の大きさを感じさせる。
台詞のひとつひとつに感情がこもっていて、慈愛に満ちた立派な殿様だ。
まだ少し台詞が入りきっていない箇所があったが、染五郎の助右衛門との息も2日目にしてピッタリと合っている。
なんとも不思議だったのは、あの理屈っぽく、時に退屈な(失礼)真山青果の台詞も、この2人が喋っているとそうとは感じさせなかったことだ。
それほど今日はこの舞台に引き込まれていた。
それにしても最後に見せる能装束、「二枚扇の獅子頭」の拵えは、何度見ても美しいし、あの鈴が何だかちょっと可愛らしいね~(笑)。

富森助右衛門の染五郎、わざと野暮ったく着付けた着物といい、花道を落ち着きなくキョロキョロとして歩く姿といい、何ともカッコ悪い(笑)。
いや、カッコ悪く見えないといけないので、まったくもってこれでいいんですがね。
彼には少々若すぎるお役かなぁーと思ったのだが、なかなかどうして、若者らしい一途さと頑固さを見事に表現出来ている。
綱豊卿との丁々発止もガップリで、台詞の応酬の間合いがとても良い。
勢いだけでなく、懸命さが伝わってくる。
特に綱豊卿に「浅野家再興を願い出ようと思っている…」と聞かされた後の表情と切羽詰った感は実に見応えがあった。
五月に潰してしまった喉がまだ良くなっていないようで、ところどころ聞き辛い箇所があったのが残念だが、喉は使っているうちに良くなっていく場合もあるので後半に期待しよう。

江島の秀太郎は、賢女らしさと大きさ、そしてそこはかとない色気があって、さすがの出来。

お喜世の芝雀は、綱豊が「お前だけはいつまでも町娘のようにうきうきとしていてくれ」と言うのも分かるような、娘らしい初々しさを見せる。
豊綱と助右衛門の間に割って入る間合いも絶妙。
真の兄妹ではなくとも、妹として助右衛門を想う心情も健気に表現出来ていて、何とも可愛らしいお喜世だった。

 

●盲長屋梅加賀鳶
湯島の境内で加賀藩お抱えの大名火消し加賀鳶と、町火消しとの間に喧嘩が勃発し、周囲は騒然。
さらに大喧嘩に発展するところを抑えたのは、加賀鳶の頭の梅吉(幸四郎)で、松蔵(吉右衛門)、巳之助(歌六)、勇次(歌昇)らも、兄貴分に従い落ち着きを取り戻す。
一方、本郷菊坂の盲長屋に暮らす竹垣道玄(幸四郎)は、人殺しも厭わず、女房を虐待するひどい按摩。
女按摩のお兼(秀太郎)と連れだって強請に出掛けた質店の伊勢屋でも凄んでみせるが、逆に自ら犯した人殺しの証拠を、松蔵に突きつけられる。

一昨年のお正月にも同じ幸四郎の道玄で拝見した作品。
あの時には松蔵が三津五郎だったけれど、今回は吉右衛門が付き合っている。
さすがに絶妙な間合いで、この2人の伊勢屋での遣り取りは最高に楽しかった。
今回も木戸前から演っていたが、花道で雷五郎次の芦燕のところでプッツリと台詞が途切れてしまって…
花道じゃあさすがにプロンプも付けられないし、暫しの沈黙。
大丈夫かなぁー、ホント。

竹垣道玄の幸四郎は、一昨年に初役で演った時と比べると軽妙さが増していた。
それでもまだ軽いとまではいかないのだけれど…
道玄という人物にはゾッとするような悪い男の顔と、どこか憎めないおとぼけなキャラクターがあるのだけれど、今回はそのどちらのカラーもなかなか上手く表現出来ていたと思う。
ダークな悪党ゆえの面白味というか…
元々幸四郎という人は同じ世話物でも小悪党というよりも、本当に酷い男の方が似合うと思うので、「髪結新三」よりはこちらの作品の方がまだ向いているのではないかなぁーと思う。

松蔵の吉右衛門は、もう適任という感じで言うことがない(笑)。
大きさといい、正義の味方的な雰囲気といい、やっぱりこういうお役にはあってるねぇ。

女按摩のお兼の秀太郎は、崩れた着物の着方といい、妙に色っぽい仕草といい、蓮っ葉な感じもとても良く出ている。
とっても上手いなぁーと思う。
でもねぇ、なんだかこの方にこういうお役は合わない気がしてしまうのよねぇ。
それこそ悪い女に見えないっていうか…
本当に悪そうな(笑)幸四郎の道玄と合わないっていうのかな。
うーん…

 

●新歌舞伎十八番の内 船弁慶
義経(芝雀)と弁慶(幸四郎)ら家来一行は、都を追われ西国を目指すが、義経の愛妾静御前(染五郎)は同行を許されず、哀しみの中で別れの舞いを舞う。
舟長(東蔵)の音頭にのせて西海に漕ぎ出した一行の前に、突然、壇ノ浦の戦いで敗死した平知盛の亡霊(染五郎)が現れ、義経に襲いかかるが、まもなく弁慶に調伏され、渦巻く海に消えてゆくのだった。


お久しぶりでした、染静に染知盛の霊!(笑)
3年前の松竹座で拝見した時の感動が蘇る~。

今回では弁慶に幸四郎。
さすがに大きさがあって、素晴らしい弁慶。
それにしてもこの船弁慶での弁慶の化粧を見るたびに思うのだけれど、あれって悪人に見えなくない?!(笑)

芝雀の義経も気品と公達らしさがあって、さすがの出来。
静を想う気持ちに、義経の優しさが見てとれる。

そして染五郎…
前シテの静御前は、3年前に観た時と比べてかなり美しくなっていてビックリ!
前はゴツくてあんまり可愛くなかったのになぁ~←失礼
「能」からきている「松羽目」物なので、女方でも地声で良いのだと思うけれど、いかんせん掠れてて聞き取り辛いのは残念でならない。
「都名所」の舞に関しては丁寧に踊っている感じはあるが、まだまだ硬さがあるように思える。
しかしながら、暗い気持ちを必死で明るく盛り立てようとしている静の健気さが見て取れて、思わず涙が出そうになった。
女方としての気持ちの有様が出てきていて、この3年の間に随分と変わったなぁーと関心した。
一方、後シテの平知盛の霊は、亡霊なのに足運びが何だか軽やか過ぎる気がしなくもないが(笑)、ここが一番難しいところなのだろうなぁーと思う。
所作板から音がしないように、海の上を駆ける亡霊らしく、しかも激しい動きをしなければならないのだものねぇ。←書くだけでも大変そう
しかーし個人的にはこの姿が大好きなので、それだけで感激な私(笑)。
一瞬赤いコンタクトを入れているのかと思ったほどに白目まで赤く見えた顔は、以前の化粧と違って目のすぐ下に赤い色を入れている。
その赤い目で薙刀を振り回して暴れる様は、非業の最期だった知盛の恨みと哀しみが見える気がする。
一瞬場内に冷たい風を感じたほどだ。
くるくると旋回しながら花道を下がっていく姿には、泡となって消えていくというよりも、豪快に海底に去っていくといった感じで、激しい情念の余韻を残して行った。


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もこもこ

かっこわるい助右衛門も染ちゃんがやるとかっこいい。
静御前も船弁慶も眼福。
夜の部は、もう見ているだけで幸せです。(by染馬鹿)
by もこもこ (2007-06-08 20:13) 

愛染かつら

もこもこ様
そーそー、贔屓目とはそういうことですよねぇー。
助右衛門なんて、あんなに野暮ったい着物と着付なのに、なんだか可愛らしく素敵に見えてしまうんですよねぇ。

静御前と知盛の霊も本当に美しかったですね~。
染ファン的には、夜の部ですよね!
もう1日増やしたいです(笑)
by 愛染かつら (2007-06-09 02:40) 

はなみずき

私も、今月の歌舞伎座は、染丈の助右衛門(+ニザ様の綱豊さま)と、知盛目当てでございます[はぁと]。
さすが、染丈ご贔屓の愛染かつら様らしい視点とハートマークで(笑)、私も拝見するのが楽しみになってまいりました!!
千穐楽近くなので、待ち遠しいです。
by はなみずき (2007-06-10 07:57) 

愛染かつら

はなみずき様
まぁぁ、はなみずきさんも染ちゃん(+仁左様)目当てだったとは?!
嬉しいです~♪

贔屓目とはまさにこのことで、どうしても染ちゃんに関しては点が甘くなってしまっているようです(笑)。
はなみずきさんがご覧になった感想も楽しみにしていますね♪
by 愛染かつら (2007-06-11 00:09) 

nori

以前にコメントさせていただいたことのある大阪の男性です。
17日に千葉に出張しますので、夜の部をみることにしました。
初めての外題ばかりですので、記事を見て予習をさせていただきました。
俳優祭りの記事も楽しく読ませていただきました。
by nori (2007-06-13 23:43) 

mami

愛染かつらさん、こんばんは。
染五郎の「船弁慶」良かったですね!知盛の方は期待通り、という感じでしたが、静が予想以上にお綺麗で見とれてしまいました。知盛での花道の出と引っ込み、格好良かったです。

幸四郎の道玄は、私はやっぱり好きになれません。もう世話物は止めたんじゃなかったの~、と思いました。幸四郎はやはり弁慶の方がニンですよね。

TBさせていただきます。
by mami (2007-06-13 23:56) 

愛染かつら

nori様
お久しぶりでした~。
17日にいらっしゃるのですか~。
まぁぁ、私はその日は昼の部でした~。
夜の部だったらお目にかかれたのに…
残念です~。

今月の夜の部はとても充実した演目だと思います。
「尾浜御殿」は新歌舞伎ながらも人気のある演目で綱豊卿と助右衛門の丁々発止が見物ですし、「加賀鳶」は名台詞でも有名な木戸前などは胸のすく思いがしますし、「船弁慶」は前シテと後シテのあまりの違いようにとても同一人物とは思えなかったりしますし…
きっとnoriさんも楽しまれると思いますよ~。

レポも楽しみにしていますね♪
by 愛染かつら (2007-06-14 14:39) 

愛染かつら

mami様
こんにちは~。

染五郎の「船弁慶」は3年前に比べたらずぅぅーっと良くなっていました!
この3年間で染ちゃんも随分と上手くなったと思うと贔屓としては嬉しいです~。
特に静御前は以前見た時にはお世辞にもカワイイとかキレイとは言えなかったのに、今回はキレイでしたよねぇー。
化粧が上手くなったのかは不明ですが(笑)…

幸四郎さんは、世話物に必要な愛嬌が無いんですよねぇー。
なんだか道玄が極悪人になってしまうんですよねぇー。
私も彼はやっぱり時代物の方が合っているように思えます。
by 愛染かつら (2007-06-14 14:43) 

nori

愛染かつら様
 17日に夜の部を見に行きました。ブログの観劇記を打ち出して予習させていただきました。歌舞伎の見方を教えていただいて、以前に増して集中して歌舞伎をみるようになりました。歌舞伎座の豪華なメンバーをみると、関東に住んでいる人がうらやましいです。
 仁左衛門が贔屓の私は、7月の松竹座が楽しみです。
by nori (2007-06-23 01:10) 

愛染かつら

nori様
おおっ、行って来られたのですねー。
こんな私のブログを打ち出してだなんて…
お恥ずかしい次第でございますが、有難いことです。
もっぱら贔屓の役者にばかりに視点を置いているもので、お役に立ったかどうか…

確かに都内に住んでいると毎月の豪華なメンバーには当たり前のような感覚がありますが、考えてみたら有難いことですよねぇー。
そう思いながら明日(いや、もう今日ですね)の夜の部の再見を楽しんで来たいと思います。

7月の松竹座、私も21日夜の部、22日昼の部に参りますよ~。
今からとっても楽しみです♪
by 愛染かつら (2007-06-23 03:03) 

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