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六月大歌舞伎 夜の部 2007.6.23 [歌舞伎]

3日に拝見して以来の約三週間ぶりの再見。
幕が開いて2日目と後半とではきっと随分と変わっていることだろう…
本日のお席は1階10列11番。
少し後方ではあるが花道に近いし、何と言っても知盛の引っ込みを観るには最高の場所だ。

 

●元禄忠臣蔵
・御浜御殿綱豊卿
前回も素晴らしいと思ったが、今回は更なる進化を遂げていて、本当に感動的な舞台だった。
仁左衛門の役への入り込みが凄まじく、それに引っ張られるように染五郎も入り込んでいる。
ピッタリと染五郎がくっついているのが嬉しい。

助右衛門の染五郎は前回拝見した時にも素晴らしい出来だったと感じたのだが、今回の芝居を観てしまうと、2日目に拝見した時にはまだまだ手探り状態だったのだろうと思えた。
大望を果たす為にはどんなに追求されようが、腹の内は見せられないという強い意志を感じさせるまっすぐな目。
焦ったり、悔しがったり、はたまた拗ねてみたり…とくるくると変わる表情も、実に若者らしく素直で爽やかだ。
表情や仕草のひとつひとつが実に細かく表現されてきたし、台詞にも気持ちがしっかりと入っている。
豊綱卿との遣り取りは何と見応えがあったことか…
命を懸けて「ではお殿様も将軍になりたいが為に作り阿呆を演じておられるのか?!」と問うた後、寂しげな綱豊の目を見た助右衛門は、どんなに彼を傷つけてしまったのだろうと項垂れる。
申し訳なさで一杯の彼の心の内が見えた。
浅野家再興を願いでると言う綱豊の言葉に、切羽詰まって敷居を越え、言葉に出来ずに涙目で綱豊を見つめるところでも、心の叫びが聞こえてくるかのようだった。
その後悲嘆にくれて、軽いパニック状態となるところも分かり易い。
以前にも思ったが、彼は仁左衛門と組むと、しっかりと良いものを吸引しているように思える。
心配していた喉は声を張り上げるところで少々掠れていたが、後はさほどの問題は感じさせなかった。

そして綱豊の仁左衛門、そこに綱豊卿本人が居るのではないかと思わせるほどの役への入り込みだ。
前回はまだ台詞が入っていなかったというのもあったのだが、理屈っぽい長台詞も緩急がより明確になり、情感たっぷりに朗々と謳いあげる。
「はっはっはっは…」と豪快な笑いには大らかな人柄を感じさせ、その目はいたずらっ子のようになったり、挑発的になったりと何とも魅力的な綱豊を創り上げている。
温和な表情から一変、激昂して刀を取った時の声の荒げ方と鋭い眼差しは、本当にかっこ良かった。
その後の助右衛門の言葉に力無く微笑んだ顔は、綱豊という男の寂しさを感じさせる。
今回は随分と泣いていて、涙で目に入れてある紅が落ちてきていたほど。
染五郎との丁々発止には、観客も息を呑み、すっかり舞台に引き込まれているのが分かる(寝ている人がほぼ居ない!)。
前のめりな二人の遣り取りには、思わず自分の身体まで前のめりになりそうになっちゃったよ(笑)。
それにしてもあの小難しい真山青果の台詞劇だというのに、それを感じさせないくらいに観客も入り込ませてくれる仁左衛門という人は、本当に凄い人だなぁーと痛感した。

お喜世の芝雀、またまた少しほっそりした?!
本当に初々しくて可愛らしい。
綱豊と助右衛門との遣り取りの一挙手一投足にハラハラしていて、見ていて可哀想なくらいだった。
しかしながら実は芯の部分では強いということも、しっかりと出ていたところも初役とは思えないほど見事だ。

新井勘解由の歌六、いかにも学者らしい落ち着きと賢者の風情を見せる。
やはりどんなお役でもこなしてしまう。

 

●盲長屋梅加賀鳶
やはりこの演目は1階席で拝見すると壮観だ。
ズラズラと居並ぶ鳶衆と威勢の良い木遣には胸が躍る。
眼目のツラネも前回は雷五郎次の芦燕のところでブッツリと途切れてしまったが、今回は台詞を忘れることもなく、順調に進んでホッ(笑)。

竹垣道玄の幸四郎、前回拝見した時より顔の作りが汚くなったような(笑)。
それに合わせたように悪人ぶりが増していたように思う。
凄みを増すことによって、軽妙になり切れない部分とのコントラストを付けようとしているのか?!(笑)。
愛嬌という部分はほぼ感じられないが、この方は芝居のウマさで見せるので、それはそれで私は観ていて楽しかったが、廻りでは撃沈している人が多かったなぁ。

松蔵の吉右衛門、何ともいえない存在感と大きさ。
それに粋でカッコいいことと言ったら!(笑)
道玄との遣り取りにも余裕を感じさせる。
それにしても幸四郎との台詞の間合いはさすがに兄弟で何とも絶妙だ。

お兼の秀太郎、化粧を完全に変えてきた。
前回は顔にも白粉を塗っていたのだけれど、今回は砥粉のみのほぼ素顔。
首にだけ白粉を使い、それが悪婆の雰囲気をより一層醸し出している。
前回感じたこのお役での違和感が無くなってきていたのは、この化粧法もあるのだろうが、何よりもご本人が楽しんで演っているのが良かった。

お朝の宗之助、この方も痩せたのね。
いかにも純朴な小娘の風情が出ていて可愛らしい。
こういう田舎娘のお役、本当にピッタリとハマるのよねぇ~。

 

●新歌舞伎十八番の内 船弁慶
あ~、もう大声で「染ちゃん、カッコいいーーーーーっ!」と花道に向かって叫びたい位に興奮した~。
いや、知盛の霊が鳥屋に引込んですぐに「か、かっこ良すぎるっ!」と放心状態で呟いてしまったんですけどね(笑)。

弁慶の幸四郎、前回と拵えが変わっていて丸い大福のような(笑)「すずかけ」が加わっていた。
なんだかイッキに弁慶の見栄えが派手になってる、ははは。

義経の芝雀、本当にスッキリしてきて公達らしさが出てきた。
静を見る目が優しくて、本当に愛おしそうだ。
今月はどのお役も個人的にかなり好きかも。

前シテの静御前、随分と良くなっていたのが分かる。
静の気持ちの有様が見えるのだ。
義経と別れたくないという気持ちや、弁慶を恨んでしまった自分が恥ずかしいという思い…
そして悲しむ姿もしっかりと表現出来ている。
摺り足での足運びも随分となめらかさが出てきていた。
「都名所」での舞では、静自身にも観客にもその風景が見えているような、何とも言えない華やかさを感じる。
ふんわりとした風情も加わっていて、前回感じた堅さは軽減されたようだ。
とは言ってもまだまだ「丁寧に踊ってるなー」と思わせてしまうところが、完全に自分のものになっていないことなのかも知れないが…

一方、後シテの平知盛の霊。
花道を入ってきた時から大きさを感じさせた。
ゾッとするほどの冷たさは、まさに海の底から蘇った雰囲気を醸し出し、恨みと悲しみの念にその身が包まれている。
薙刀を振り回して暴れまわる時には、腹の底から「ふんっ」という気合が聞こえた。
亡霊としてはどうのかなぁーとも思うが(苦笑)、その甲斐あってか芯がぶれていない素晴らしい動きだ。
幕外となって太鼓と能管が出て来るまでの間でも、気持ちが途切れてはいずに、目を閉じた姿に妖気を漂わせているのも立派。
そしてこの太鼓と能管がまた素晴らしい演奏を聴かせてくれ、鳥肌が立つほどの壮絶な引込みを見せてくれた。
くるくると旋回しながら花道を行き、鳥屋の前ではその旋回が更に早くなり、ものすごーい勢いで廻っている。
前回はここまで凄まじい引っ込みではなかった。
まさにたっぷりと見せてくれた感があり、揚幕に消えた後の拍手は今までで一番多かったように思った。

この「船弁慶」での静御前と平知盛の霊。
まったく違うキャラクターではあるのだけれど、ある意味似ているところがあるのだなぁーと今回思った。
どちらも感情自体の違いはあるものの、義経に対する強い執着心がありながら、結果的には弁慶に邪魔されてしまうのよねぇ。
だからこその同一人物で演じることに意味があるのかなぁーと…
まぁ、私の勝手な解釈なんですけど(笑)。


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コメント 4

もこもこ

進化しているんですね。楽日が楽しみです。今月初日と楽日、なんて取り方しちゃったので、、、。
知盛とーっても楽しみです。
by もこもこ (2007-06-25 07:20) 

愛染かつら

もこもこ様
舞台って進化するんですよねぇーーー。
初日と楽日ではぜんぜん違っていると思いますよ~。
私も前回は2日目でしたから、ほぼ初日と似たようなもんですし…
知盛はきっと楽日なら「いつもより多く廻っておりまーーーーす」とかになりそうですね。
レポ、楽しみにしていまーす♪
by 愛染かつら (2007-06-25 17:27) 

nori

2回目の観劇のレポも楽しく読ませていただきました。それにしても、1回目との違いをよく覚えておられるのに驚きました。私は、同じ舞台を2回みたことがないのですが、2回みてもおそらく違いをレポートすることはできないでしょう。でも、どういうところを見ればいいかを教えていただいて、以前よりは場面を記憶できるようになったと思います。
 7月の松竹座は私の方が先に鑑賞します。レポを書くのが少しプレッシャーです。感想文の宿題をだされた小学生の心境です。
 大阪へのご旅行が楽しいものになるように祈っています。
by nori (2007-06-26 01:00) 

愛染かつら

nori様
ご拝読頂き、有難うございますー。
私、結構オタクな部分がございますので(笑)、かなりグググーッと芝居に入り込む体質みたいです。
なので覚えているところは覚えているんですねぇ。
でも記憶にないところも多々あります。
そういうところはレポに書いていないので、かなりズルいレポなのです~ゅ笑)。

おおっ、松竹座ではnoriさんの方がお先なのですねー。
あ、でもレポは気長に、しかも絶対というワケではございませんから、気にしないで芝居をたのしんで下さいねぇーーーー。
宿題だと思うとせっかくの芝居も楽しめないでしょう?!
本当に気にしないで楽しんでいらして下さい~。

大阪は大好きな街ですので、行くのが今からとっても楽しみです。
何食べようかなぁーなんて考えるだけて幸せ♪
by 愛染かつら (2007-06-26 01:25) 

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