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七月大歌舞伎 NINAGAWA十二夜 夜の部 2007.7.14 [歌舞伎]

この「十二夜」は、一昨年の初演時にもチケットを取ってあったのだが、体調を悪くして行けなくなってしまったので今回が初見。
評判が良かったので、本当に残念な思いをしていたのだが、再演してくれて本当に良かった。
本日のお席は3階10列29番。

 

●「十二夜」
航海中の船が難破して、双子の兄斯波主膳之助(菊之助)と離ればなれになった琵琶姫(菊之助)は、舟長の磯右衛門(段四郎)の助けで、男姿となって獅子丸と名乗り、紀伊国加太の大篠左大臣(錦之助)に仕え始める。
左大臣は、ただいま公家の織笛姫(時蔵)に激しく片想い中。
織笛姫はといえば、左大臣からの恋文を持参した獅子丸にひと目惚れしてしまい、その獅子丸=琵琶姫は、左大臣を密かに慕うという、ややこしい恋愛模様となってしまう。
一方、織笛姫の叔父の左大弁洞院鐘道(左團次)は、厳格で口うるさい家老の丸尾坊太夫(菊五郎)が織笛姫に想いを寄せていると知り、ひと泡噴かせようと、恋人の腰元麻阿(亀治郎)や、右大弁安藤英竹(翫雀)らといたずらを仕掛け、まんまと成功。
そうこうしているうちに、難破したのち海賊に助けられていた斯波主膳之助も、織笛姫邸に到着。
獅子丸と斯波主膳之助。
そっくりな二人が交互に現れ、周囲はますます混乱してゆく。


幕が開くと舞台にどどーんと鏡が…
ドッと歓声が上がる歌舞伎座場内。
おお、これが噂に聞いていた観客をも映す鏡なのか~。
いや、映像では見ているんですが…
ハーフミラーであるその鏡の後透けて見える桜の木の美しいこと。
そしてオルガンの音と鼓の音、そして子供達の歌声が何ともいえない異国情緒を醸し出している。
そーいえばオルガンの絵柄が以前と違って天使になっていた。

それにしてもやはりこの舞台は美術が素晴らしい。
二幕の波なんて照明がとっても上手く使われていて、本当に海に船が漂っているようだ。
特に上から観ているので、その効果は絶大なもの。


大篠左大臣の錦之助は、いかにも悩める貴公子といった風情でピッタリな配役で、左大臣という役柄の大きさも感じる。
シェイクスピアの世界が一番出ていたように思えた。

織笛姫の時蔵、いかにも歌舞伎らしい赤姫といった感じで可愛らしさの中に芯がある。
唯一歌舞伎の世界をそのまま演じているが、さすがに見事な表現力。
この織笛姫が登場する度に聴こえるチェンバロの音も耳に心地良い。

左大弁洞院鐘道の左團次、いつもの聞き取り難い台詞廻しと違って(失礼)、なんとも分かり易い。
飄々として軽妙な中に、酒好きな好色漢な雰囲気がよく出ている。

腰元麻阿の亀治郎、もう本当に素晴らしい!
とても武田晴信を演っている人と同一人物とは思えない(笑)。
機智に富みながらも可愛いらしく、それでいてパルコ歌舞伎「決闘!高田馬場」での堀部ほりのような感じの役作りが、何ともいえずに良い。
かなりの弾け様は場内の爆笑を生んでいたし、細々と面白いことを演ってくれるので、とにかく目が離せない。
何よりも本人が楽しんで演っているのが分かって、観ているこちらまで楽しい気持ちになっていた。

右大弁安藤英竹の翫雀、今回唯一初参加となっていたが、前作の松緑と違った役作りでこれまた楽しい。
キザで世間知らずの坊ちゃん風な公家といった趣きで、薄紫のメッシュの入った髪型は前髪が異常に長く、それをいちいち花形満のように首を振っての仕草が笑える。
すっかり喜劇役者のようなんですけど(笑)…
亀治郎同様に楽しんで演っているのが分かる。
それにしてもこういう顔の拵えをすると、お父さんの藤十郎にそっくり。

捨助と丸尾坊太夫の二役を演っているのは菊五郎。
捨助では物語を引っ張っていく道化といった感じで、居なくても話しの流れには影響はないのだがスパイスのような存在だ。
そういった雰囲気を軽妙な動きと台詞廻しで見事に表現している。
一方の坊太夫では頑固者の硬さがよく出ているので、騙されているのも知らずにウコン色の衣装に身を包んでの薄笑いが余計に可笑しい。
そして後半の騙されたと分かった後のキレ方が見事で本当に笑わせてくれる。
菊五郎はやっぱり喜劇好きなんだねぇ~。

琵琶姫実は獅子丸、そして兄斯波主膳之助を演っている菊之助。
そりゃもう早替わりしまくりの舞台に出ずっぱりで大変だろうなぁ~。
特に良かったのは獅子丸だった。
実は琵琶姫であるということを仕草や声で表現していたが、なんといっても佇まいでも体現して見せたことは秀悦だ。
小姓の姿でありながらも何とも可愛らしい雰囲気が滲み出ていて、琵琶姫の姿よりも色っぽく美しかったように思える。
左大臣への恋心もいじらしい。
欲をいえば琵琶姫の姿ではもう少し柔らか味が欲しかったかな~。
一方の斯波主膳之助では立ち姿にも男らしさが漂い、立派な若侍の雰囲気が出ていた。


賛否両論を生んでいるマスクだったが、私はあまり気にならなかった。
一箇所だけ袖で口を隠しながら吹き替えの声を出していたところもあったので、歌舞伎らしい手法も盛り込んでいるのだろう。

幕切れの大団円は出演者が居並び、旅に出る捨助に向かって手を振るという趣向になってはいたが、明らかに観客に手を振っていた(笑)。
こういう演出はやはり新鮮。
また、いかにもシェイクスピアらしい言葉遊びは、日頃の歌舞伎に慣れていると若干台詞のテンポが速いように感じたが、思ったほどの違和感はなく私はとても楽しめた。
細かな点で初演時とは違っていたが、それも良い方向に行っていたのだろう。

 

 


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はなみずき

私も、海難のシーンは3階席のほうが数倍楽しめました。あの波布や、舟の動きは凄いですよね。ちょっとディズニーの映画を見ているかんじがしました。1階で拝見しますと、それなりに役者さんの表情が楽しめますが、あの海のシーンはゼッタイ3階でした。
そして、あの「マスク」も、3階席だと意外と気にならなかったかも(笑)。いいようにボヤけて…。
蜷川先生の視点なのか、劇場のどこでも楽しめるお芝居に仕上がってますよね~。
by はなみずき (2007-07-17 06:56) 

愛染かつら

はなみずき様
こんにちは~。
あの海は絶対に上から観た方がキレイだと思いました~。
歌舞伎的ではない手法でしたが、文句なく美しいと感激しましたよ。

マスクは確かに3階ではほとんど気になりませんでした。
初演時よりも自然な使い方されていたように思えます。

菊之助さんは本当に美しかったですね。
以前のものを映像で見た時にもキレイだと思っていましたが、今回の方がずーっと良くなっていました。
by 愛染かつら (2007-07-17 14:53) 

まりか

こんばんわ~、今日で2回見てきました、十二夜!!おもしろいし、解りやすいし、なにより「美しいかったです。」何度見てもいい!!亀丈と翫雀丈は本当に面白い。あと私團蔵丈が「目が離せなく」かっこいいのあの方ハート。若菊丈は「美しすぎて、ラブコメなのに、拝見してると泣いてしまいます。泣」後は来週行きます♪
話変わりますが、「歌舞伎チャンネルで『竜馬がゆく』がやってて」見ました。高麗屋ファミリー総出演!!竜馬のキャラは染様に合ってますね~今度「鬼平」にも出演しますね、染様。舞台は今月最後の「厚木まで見に行きます」楽しみです。
by まりか (2007-07-19 00:06) 

愛染かつら

まりか様
おおっ、すっかり菊丈の虜になっていますね~。
本当に美しいですものねぇ。
團蔵丈はいつも面白いお役をなさいますよねぇ。
悪役にはピッタリですし、菊之助劇団でもとても貴重な存在ですね。

「竜馬がゆく」は私も大好きな作品です。
お正月にやった時にはずーーーっと見続けてしまいました。

巡業、私も今月末の鎌倉に行きます。
1ヶ月経ってどんな風に変わっているかが楽しみです。
by 愛染かつら (2007-07-19 15:52) 

Ren

こんにちは。NINAGAWA十二夜の再演ということで
2週連続で歌舞伎座へ通ってしまいました。。。
マスクはどうなのかな~という気はしますが他に方法もないですし
菊之助さんが本当に二人いたらいいんですけど(笑)
今回の菊之助さんは獅子丸の姿なのに本当に琵琶姫になっていて
女性が具間見えてしまう姿の自然さがとてもすばらしかったです。
by Ren (2007-07-22 22:29) 

愛染かつら

Ren様
こんにちは、お久しぶりでした~。
コメントとnice!、ありがとうございます。

ホント、菊之助さんが2人居たらいいですね(笑)。
マスクは確かに「うーん」とは思いましたが、覚悟して行ったせいかさほどの違和感は感じませんでした。

私も菊之助さんの獅子丸はかなり良かったと思いました。
前回よりずっと自然な感じで「実は琵琶姫」というのを表現していましたよね。
本当に最近の彼は頑張っていますね!
by 愛染かつら (2007-07-23 14:02) 

mami

愛染かつらさん、こんばんは~。
ほんとに素敵な舞台でしたね。装置も役者さんも綺麗で…。
菊之助ちゃんが前回よりまた一回り大きくなって、堂々と演じていたのが印象的でした。
でも菊ちゃん以上に印象が強かったのがやはり亀ちゃんで…。ほんとテレビの晴信と同じ人とは思えないですよね。早く歌舞伎に帰っておいで、と思ってしまいました。
by mami (2007-07-26 00:06) 

愛染かつら

mami様
いつもコメントとTBを有難うございますー。

ステキな舞台ですよねぇー、ホント。
映像では拝見していましたが、ナマで観て思わずウットリしてしまいました。
菊之助丈は最近、とっても頑張っているのが分かりますね。
芸に深みが増した気がします。
亀ちゃんは元々好きな女形が出来て、思いっきり楽しんで演っているように思えました。
秋には撮影が終わるでしょうから、巡業そして来年からはきっと歌舞伎座でも頑張ってくれますよねぇー。
by 愛染かつら (2007-07-26 02:43) 

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