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七月大歌舞伎(松竹座) 夜の部 2007.7.21 [歌舞伎]

久しぶりの松竹座。
といっても今年2度目だけど(笑)。
今回は仁左衛門丈が若手の監修をなさるということで、チケットを取っていた。
夜の部は仁左様は右京だけだし、海老クンの「油地獄」だし、まぁ、別に一等席でなくてもいっか、と二等席で倹約したのだが…
まさかの海老クン休演で仁左様の「油地獄」が観られることに!
海老クンには悪いけど、ああ、こんなことなら一等席にしておけば良かったよぅ~。
でも観られるだけで幸せだよね、うん。
もう観られないって思っていた仁左様の与兵衛だもん。
本日のお席は2階6列22番。

 

●鳥辺山心中(とりべやましんじゅう)
将軍徳川家光に従って上洛した旗本菊地半九郎愛之助)は、祇園の若松屋抱えの遊女・お染(孝太郎)と恋仲になる。
やがて江戸へ帰ることが決まり、お染を身請けしようと考えていた半九郎だが、些細なことから朋輩の市之助の弟・源三郎(薪車)と争いになり、激しい斬り合いの末殺してしまう。
進退窮まった半九郎はお染と共に死を決意し、春の晴れ着を死装束に鳥辺山へと向かうのだった。


さすがに新歌舞伎なだけあって、立ち回りも古典的なツケ打ちなどは用いずにリアリティがあるし、なんといっても美術が本当に綺麗。
それにしても愛之助と薪車の二人での立ち回りは、とっても美しかった~。

菊地半九郎の愛之助、なるほど柔らか味があって上方役者さんらしい佇まい。
動きは少々硬さが残るし、お染をそれほど愛しているとも思えないんだなぁ~。
なんだかクールなのよねぇ。
心中するくらいなんだから、お染との間にもっと濃密な空気が欲しかった。

お染の孝太郎、遊女らしさはあまり感じない。
世話女房的な雰囲気が漂う。
もう少し色気が出るといいのだけれど、最近美しさに磨きがかかってきたのは事実だと思う。

坂田市之助の秀太郎、おばさんにしか見えません~(笑)。
いや、遊び慣れた風情はあるんですけどね。
やっぱり秀太郎さんには女方で居て欲しい~!

 

●身替座禅(みがわりざぜん)
恐妻家の大名、山陰右京(仁左衛門)は愛人の花子に会いに行く為に一晩座禅をすると嘘をつく。そして太郎冠者(愛之助)に自分の身替りに座禅をさせるが、奥方の玉の井(歌六)にバレてしまっていた。
そうとは知らない右京は朝帰りをして花子との一夜を玉の井に語ってしまう。


以前仁左衛門の玉の井を拝見した時に、右京も観てみたいなぁと思っていた。
仁左衛門の玉の井はものすごーーーくコワいんだけど、右京のことが大好きなんだなぁーというのが分かる役作りだったが、右京はもう本当に可愛い役作りとなっていた。
ふんわかとした柔らか味があって、愛嬌たっぷりで、色っぽく、本当に可愛い。
思わず舞台写真買っちゃったし(笑)。
これなら玉の井が好きで好きで仕方が無いはずだなぁーと思わせる。
膝の調子が良くないと聞いていたが、腰を深く落として姿勢を低く取った姿からはそんな事は微塵も感じさせない。
今まで何人かの右京を観て来たが、後朝の姿が艶かしく一番色っぽかったのはこの仁左衛門だろう。
菊五郎はちょっと化粧がギャグ入ってたし(笑)。

一方、玉の井の歌六は、器用なこの方らしく品良くまとまってはいたが、個人的には物足りなさが残る。
コワくないし(笑)、右京に対する情愛もあんまり感じないし…
うーん。

太郎冠者の愛之助、目尻の下がった化粧が飄々とした雰囲気を醸し出す。
動きも軽妙さが出ていてなかなかの出来。

 

●女殺油地獄(おんなごろしあぶらのじごく)
油屋を営む河内屋の次男・与兵衛は、放蕩三昧で喧嘩沙汰ばかりおこしている。
また、借金の返済に困り親からも金を巻き上げようとするが、とうとう家を追い出されてしまう。
そこで与兵衛は、同業の豊嶋屋のお吉に頼ろうと店を訪れたところ、そこで親の慈愛あふれる言動にふれる。
もう親に迷惑はかけられないと思った与兵衛は、お吉に不義になって金を貸して欲しいと迫るのだが断られてしまい、お吉を殺して金を奪っていく。


この作品はナマの舞台では獅堂が昨年演った三越歌舞伎、そして映像では染五郎が平成13年に演ったものを拝見している。
どちらも仁左衛門が監修をしていたが、やはり本家は違う(笑)。
染五郎のものはなかなか良かった印象を受けたが(贔屓目爆裂!)、まだまだなんだなぁーと痛感さぜる得ない。


女房お吉の孝太郎、さすがに何度も演っているだけあってきっちりと見せてくれる。
少々おせっかいな隣のオバちゃん的部分を前面に出していて、人妻の色気といったものはあまり感じさせない。
が、色っぽくないわけではなく、その辺りは上手いバランスだったように思う。
三幕目で与兵衛に殺されそうになるところで、もう少し母親としての顔が出てくると言う事ないと思った。

豊嶋屋七左衛門の愛之助、何だか「鳥辺山心中」の時より、こっちの方が孝太郎とラブラブ度があるように思うんですけど(笑)。

与兵衛母おさわの竹三郎、母として息子への愛情を感じる。
が、夫に対してすまないという気持ちはあまり出ていなかったように思える。
それにしてもこの母が「ちまき」を持って来る辺りが、いかにも母らしい行いで涙を誘う。

河内屋徳兵衛の歌六、いかにも元は先代に使われていたという身分を低くとった姿勢で感じさせる。
人の善さ、そして父としての愛情も上手く表現出来ていた。

芸者小菊の宗之助、体調が悪いのかなぁー。
何だか更に痩せてしまった上にいつもの精彩がない。
先月はなかなか良かったんだけど、この方は波が激しいなぁ~。

そして河内屋与兵衛の仁左衛門、花道を出て来た途端にもの凄い拍手が…
明らかに通常の公演とは違う雰囲気が観客席に漂っているのが分かる。
みんなが彼は「いったいどんな与兵衛を見せてくれるのだろう」と固唾を飲んでいるようだ。
その仁左衛門は期待に応えるかのように、全体的にたっぷりと演っている印象だ。
それにしても湯のみ茶碗の扱いひとつ取ってもお茶とお酒を飲む時では、使い方が違うもんなんだねぇ~。
こんな細かいところにまで感動してしまう。
そしてやはり身に染み付いた関西弁というのは違うんだなぁーと。
「じゃかぁしぃわぃ~」という台詞の耳になんと心地良いこと…←別に私はマゾじゃあありません
三幕目「豊嶋屋油店の場」となり暗い場内に花道からすーっと与兵衛が頬被りをして登場する。
顔にはほの青白いライトが充てられているが、この光のせいなのか驚くほど美しく若い男に見える。
お吉に金の工面を「うとましや、うとましや~」と断られる辺りから、「いっそ不義になって…」となっていくまでの表情の変化が面白い。
時を知らせる鐘がゴーンと鳴り、いよいよお吉を殺してしまおうと決意するまでの感情も、たっぷりと見せてくれる。
親に迷惑をかけない為には、お吉を殺してでも金が必要だと思い込んでしまう愚かな男。
ひとつの事を為す為には、後先は見えなくなってしまう子供のような男。
「俺も俺が可愛がる。親爺が愛おしい」という台詞には、自身の為というよりも親の為だと思い込んでいる与兵衛の心が出ていた。
油のようにねっとりした三味線の音と、油のとくとくと流れる音が青暗い場内に響き渡り、恐怖に満ちた緊張感が漂う。
暗い中に浮かび上がる与兵衛は、小心者故の恐怖に満ちた必死の形相で、お吉のたぶさを掴んでの型となる。
そしてこの型から次第に表情が変化していく。
お吉を追いかけながら、まるで彼女に遊んで貰っているような無邪気な薄笑いを浮かべる。
猫が鼠を甚振っているような感じとでも言おうか…
殺すことを楽しんでいるような顔になっていくのだ。
笑ってるよ…
なんて恐ろしいんだろう…
これこそ狂気の顔だ。
全身にゾッと鳥肌が立たった。
その見事なまでの役への解釈に感激で涙が溢れる。
とうとう殺してしまった後、ほんの一瞬恍惚の表情を浮かべ、暫しの間があり、倒れているお吉に視線を移してハッと我に返った途端に、また小心者の顔を見せる。
刀を手から外し、花道を逃げて行くまでの一連の動きも、かなりたっぷりと演っていた。
くるくると変わっていく表情は、見事なまでの心理描写を表現し、そのひとつひとつが観ているものの心に刻み込まれる。
凄いものを見せて戴いた…というのが率直な感想。
とにかく仁左衛門の役への入り込みはすさまじく、与兵衛の狂気に何度も何度も鳥肌が立った。
与兵衛が鳥屋に入ってからも拍手は暫らく鳴り止まず、いかに観客がこの与兵衛に感動しているかが分かった。

今の仁左衛門だからこそ出来た与兵衛だと思った。
舞台写真が出ていたら欲しかったが、さすがに代役公演では無いようだった。
「若手に譲る」なんて言わないで、東京でもぜひぜひ演って欲しい。


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まこ

仁左衛門さんの与兵衛ステキでしたねぇ~。
告白すると、私は、仁左衛門さんの右京は歌舞伎座だとみられなさそうなので、身替だけの幕見気分で、3等しかとってなかったんです(泣)。
もともと文楽がメインの遠征だし。
代役をみて、えぇっっ~、仁左衛門さんなのぉ~、1等にしておけばよかったーと思った不心得ものです。海老さまファンごめんなさい。
3等でも十分恐ろしさは伝わってきましたよ。
ほんといいものみせてもらいました。
by まこ (2007-07-30 19:48) 

カオリ

愛染さま、羨ましいですぅぅぅ。
仁左さまの女殺し油地獄、観たような、観てないようなあいまいな記憶が。。。
代役だなんてもったいないですよね。
by カオリ (2007-07-30 23:40) 

nori

大阪に来られる予定だと書かれていたので、記事が出るのを待っていました。進行に従って変わる表情をよくみておられると感心しました。改めて公演を振り返ることができました。
 11日に海老蔵で夜の部をみて、どうもよくわからないという感じが残ったのですが、仁左衛門が代役をするとなって、25日にも観に行きました。初めて同じ公演を二度みることになりました。海老蔵の大阪弁が少し気になったのですが、少しの差が舞台の雰囲気を変えるのかもしれません。与兵衛という役は難しい役だと思います。
 26日に買った番付には、仁左衛門の写真が9枚追加で載っていました。第3版で25日発行となっていたので、手に入ったのは幸運でした。
 
by nori (2007-07-31 00:31) 

愛染かつら

まこ様
まぁぁ、まこさんも一等席では無かったのですねぇぇー。
お気持ち、とーっても分かります。
私も今回の松竹座は仁左様の狙いだったので、比重は昼の部の方でして…
昼は一等にするのを悩まなかったのですが、さすがに両方一等だと金銭的にキツいかなぁーと思って二等にしてしまいました。
これが大間違いでしたよ~。
一等にしておけば良かった…と悔し涙でした。
ホント、海老君には悪いとは思いますけど…

でも松竹座は3階席でも歌舞伎座と違って観易いですものね。
まこさんも堪能されたようですし。
今回の与兵衛は歴史的な舞台を観たような気がしました。
by 愛染かつら (2007-07-31 01:44) 

愛染かつら

カオリ様
今回の事は海老クンには悪いけど、本当にラッキーでした。
仁左様の与兵衛は想像していたものよりも、はるかに凄かったです。
ぜひとも歌舞伎座でもあと1回位は演って欲しいですよね!
by 愛染かつら (2007-07-31 01:46) 

愛染かつら

nori様
記事を待っていて下さったなんて、本当に嬉しいです。

あまりの表情の素晴らしさに、オペラグラスから目が離せなくなるほどガン観していたようです。(苦笑)

海老蔵のものも興味があったので、見比べられたnoriさんが羨ましいです。
与兵衛は確かに難しいお役でしょうねぇー。
人によって解釈の仕方も様々だと思いますし。

ところで番付に仁左様の写真が追加されていたのですかー?!
私が行った時には代役となる与兵衛のものが入っていなかったので買わなかったのですが、そうと知ったら通販してもらおうかしら~。
by 愛染かつら (2007-07-31 01:52) 

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