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寿初春大歌舞伎 昼の部 2008.1.5 [歌舞伎]

昨日はさすがに観劇も休み、今日は昼の部の初見。
当初は昼の部は20日に1回拝見するだけの予定だったのだが、やっぱりちょっとでも早く「猩々」を観たくなり3階席を追加。
あ~あ、今年も観劇は減らせないのかなぁ(笑)。
本日のお席は3階11列23番


●猩々(しょうじょう)
酒を好物とする猩々(梅玉、染五郎)が、酒売りの高風(松江)の勧めるままに酒を飲むと上機嫌となっていく。
まさにお正月らしい華やかかつ品格のある長唄舞踊。

初めて拝見する演目だったのだけれど、実に楽しい舞踊だ。
猩々が杯を重ねるごとに次第に酔っていく様も楽しいし、千鳥足を表現したと思われる踊り方も面白みがある。
人ではない生き物と人との交流を何とも摩訶不思議な空気感を漂わせて見せてくれた。
「ぶどう酒、養命酒、薩摩の泡盛~」と色々な酒の名前が出てくる長唄も面白い。

梅玉と染五郎は、拵えがまったく同じというのもあって、その踊りの違いがとても良く分かる。
梅玉からはどっしりとした落ち着きを、染五郎からは若々しさとキレの良さを…
染五郎は梅玉を決して邪魔することなく、引き立てているように見えた。
夜の部の「連獅子」でも幸四郎を突き放していった前回とは違い、むしろ引き立てていたような印象を受けたので、ひょっとしたら彼自身が今までの若さで突っ走っていた踊りを変えてきたのかも知れないと思った。
ああ、それにしても染ちゃん、この赤い鬘がとっても似合っていて可愛いんですけど(笑)…
酒壷を覗きこんで嬉しそうにする姿も可愛い~。←贔屓目です、はい。

松江も身体の遣い方に無駄がなく美しい。
また、人間でないものを目の当たりにしているという、どこか驚きのようなものがハラにあるのではないかと思わせてくれた。

それにしてもこの踊り、三人が三人ともとても良く、観ていて気持ちが良かった。
まさにお正月の幕開けには相応しい演目だと思った。


●一條大蔵譚(いちじょうおおくらものがたり)
檜垣
奥殿

とにかく素晴らしかった。
この演目は勘三郎襲名の時にも拝見しているが、勘三郎のものも良かったとは思ったが、やはり吉右衛門の方がずっと好みだ。

『檜垣』で吉右衛門扮する大蔵卿が登場した途端に、その阿呆ぶりの愛らしさに目が奪われる。
可愛いんだもの、ほんとに。
観ていて思わず頬が緩んでしまう。
作り阿呆には決して見えない、大蔵卿の人としての底の深さがある。
ここで本物の阿呆を感じるからこそ、奥殿での正体を現してからとの対比が面白い。
源氏の血をひくという武士の猛々しさと公家の高貴さ、そして阿呆のふりの切り替えが実に見事で決してわざとらしくなく自然。
八剣勘解由の首をまるで鞠をもてあそぶが如くする仕草は、その純粋で子供のような表情にぞっと背筋が凍る思いがする。
怖い男だ…そう思わせてくれる吉右衛門の一條大蔵長成だった。

常盤御前の福助、今月は昼夜共に大役だというのもあり、こちらも実に丁寧に神妙に演じている。
ただ抑えすぎの感があり、なんだか印象にあんまり残っていない(笑)。

八剣勘解由の段四郎、やはりこの方の敵役は上手い。
「死んでも褒美の金が欲しい~」との台詞がピッタリとハマっていた。
私、何気にこの台詞、好きなんですけど(笑)。

お京の魁春、いかにも忠義に厚い武家の奥方という人物像がよく出ている。

吉岡鬼次郎の梅玉、若さゆえ大蔵卿に説教までしてしまうという短慮な性質には、やっぱりどうしても見えないんだけど(笑)、源氏の再興を願う忠義の思いは溢れんばかりで伝わってきた。


●けいせい浜真砂(けいせいはまのまさご)
・女五右衛門

本当に10分もあったんでしょーか…
アッと言う間に終わってしまった気が…
何だか台詞も随分と端折られていたように思えた。
でもこの演目はあの拵えを付けて雀右衛門が出ているっていうだけで良いのだ。
浅黄幕が切って落とされた時の観客の感嘆の声がそれを全て語っていると思う。

雀右衛門は後見がプロンプを付けても聞こえなくなってしまっていたが、空いてしまった間を埋める時の「ふんん~」という声の何と色っぽいことか…
まさに傾城の色香だ。


●魚屋宗五郎(さかなやそうごろう)
前回幸四郎がこのお役を初役で演ったのは、ちょうど3年前…
私が歌舞伎を観始めたばかりの頃だ。
何だかその当時のことを思い出しながら観てしまった。

全体的な雰囲気が前回とは変わった印象を受けた。
もちろん座組も違っているので変わるのは当然なのだろうが、台詞も少し変わり軽さが出てきている。

魚屋宗五郎の幸四郎、やっぱりこの方の宗五郎はリアルだなぁと思う。
酔って目が据わっていく様は、ただの酒好きの男ではない本物の酒乱のようなのだ。
このリアリティが彼の芝居の良いところでもあるのだが、世話物をする上では重すぎるところもあるかも知れない。
観ているものがあまりに現実的で辛くなってしまう。
ただ私は個人的には幸四郎の宗五郎は好きだ。
父親の太兵衛に「普段は魚屋風情には珍しく道を立てる~」と言われるくらいに分別臭いところも合っているように思える。
そして何よりも屋敷で泣き笑いをしながら切々と妹への思いを家老に訴える場面の台詞廻しがいい。
この場面は勘三郎が演った時には泣けなかったが、幸四郎の時には泣ける(前進座の梅之助の時にも泣けたけど)。

小奴三吉の染五郎、前回よりずっと落ち着きが出ている。
こまごまとした仕事もとても自然にこなしているし、台詞にも気持ちが入っているように思える。
ただちょっと顔の作り方が綺麗過ぎるかな。
前回の時のようにほとんどすっぴんでも良いと思った。

磯部主計之助の錦之助、すっきりととても美しい。
おだやかな雰囲気からはとても酒癖が悪いようには思えないんだけど、宗五郎とはそういう意味では同じだ。
それゆえか宗五郎に対する気持ちがよく出ていたと思う。

おなぎの高麗蔵、なんだかビックリするくらいに綺麗で柔らか味が出ている。
この方、女方をすると硬すぎるイメージがあったんだけど、今回はそんなことまるで感じなくとても良い。

おはまの魁春、以前「芝浜革財」でのおたつがとても良かったので、実はこのおはまも楽しみにしていた。
ちょっと硬い印象は残ったものの、しっかり者の女将さんの風情はきっちりと出してくる辺りはさすが。
やっぱりこういう世話物ももっと手がけて欲しいと思った。

それにしても宗五郎の化粧って、どうしてあんなにコワ面なんだろう。
他の役者さんが演られているものでも、ヤクザの親分みたいな化粧だった(笑)。
魚屋なのにそれが凄く不思議だったのだけれど、今回拝見していてハタと思った。
考えてみたら宗五郎はまだ魚屋になって1年…
それまでは酒乱で家財道具を質に入れてしまうくらいに生活に困っていた、という話なのだから実際はどんな生業をしていたのかも分からない。
根っからの魚屋ではないのだから、魚屋らしくなくてもいいのかなぁーなんていうのは考えすぎかな(笑)。


●お祭り(おまつり)
團十郎のすっきりとした鳶姿はとてもカッコいい。
助六よりこっちの方が好きかも(笑)。
それにやっぱり「待っていたとはありがてえ」と聞くと、何だかこちらまで嬉しくなってしまう。
獅子舞も出てきて、お正月の昼の部の打ち出しにはとても気持ちが良かった。


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コメント 2

mami

愛染かつらさん、こんばんは。
吉右衛門の大蔵卿の阿呆作り、可愛かったですよね~。後半の立派さとの対照がお見事でさすがでした。

宗五郎の化粧、私もなんかやくざみたい~、と思っていました。確かに昔は博打などもやって身を持ち崩していた男なのかもしれませんね。
幸四郎の宗五郎はリアルさが役に合っていて良かったと思います。
by mami (2008-01-25 23:27) 

愛染かつら

mami様

こんばんは、いつもコメントありがとうございます。

吉右衛門丈の大蔵卿は本当に絶品でした!
あの自然な変わり目はさすがですよね。
それに阿呆の作り方が本当に可愛らしくて、思わずこちらも見ていて微笑んでしまっていました。

宗五郎の化粧、ホント何であんなにコワいんでしょうねぇ。
なぞ(?)を知りたいです!(笑)。
幸四郎丈の世話物ってあまり好きではありませんが、この宗五郎だけは別で、あのリアルさが私も好きです。
by 愛染かつら (2008-01-26 00:22) 

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