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初春花形歌舞伎「雷神不動北山櫻」 夜の部 2008.1.6 [歌舞伎]

怒涛の歌舞伎週間が続き、今日は演舞場の「海老クン奮闘公演」(?)を拝見しに赴く。
正直言ってあんまり期待はしないで行ったのだが(失礼)、思っていたよりはずっと楽しめた。
やはり海老蔵人気は若い人には高いらしく、歌舞伎座や国立と違って若い人の率高し…
思わず目を見張るくらいにヘンテコリンな着物姿の人も居たりするのだが、まぁ、着物を着ようというその気持ちだけでも良しと思わないとね。
2階のロビーには開基1070年という成田山新勝寺から不動明王様も出開帳されている。
もちろん有難くお参りさせて頂いたが、やはりお不動様を写真に撮るというのは気がひけたので、撮影は止めておいた。
本日のお席は3階1列3番。


●雷神不動北山櫻(なるかみふどうきたやまざくら)
平安時代のはじめ。
朝廷の人々に裏切られた事を恨みに思う高僧・鳴神上人は、自らの行法で京都北山の滝壺に竜神を封じこめてしまう。
その為、日照りが続き、朝廷の人々が頭を悩ましている。
実はこの鳴神上人が朝廷に恨みを抱くように仕組んだのは、天下を掌握しようとする早雲王子だったのだ。

歌舞伎十八番で有名な「毛抜」「鳴神」「不動」が、この「雷神不動北山櫻」から独立したものであるので1度はこの通し狂言を拝見したいと思っていた。
それに海老蔵の「鳴神」は昨年、見損なってたし(苦笑)。
で、ひとことで言えばやっぱり「ザ・海老蔵ショー」だった。
いや、それは良い意味もあるんだけど…
五役&口上を勤めたというのは立派だと思うし、初心者にも分かりやすいエンターティメントに仕立て上げたのも良いとは思う。
ただなぁーんかね、他の役者さんがぜんぜん生きていないっていうか、座組にまとまりを感じ無かったところが残念。
唯一、雲の絶間姫の芝雀だけは、さすがの存在感だったけど…
まぁ、これは後半にいくに連れて良くはなっていくとは思うけど。


・口上
幕が引かれると緋毛氈に座った裃姿の海老蔵。
新年の挨拶の後、頭上に掲げてある5枚のパネル(粂寺弾正、安倍清行、不動明王、早雲王子、鳴神上人)の人物像を大まかに紹介しつつ、話の流れを簡潔になおかつ分かり易く説明してくれる。
きっと日頃あまり歌舞伎を観ない方も観客には多くいるだろうから、これはなかなか良い趣向だと思う。
ここまで海老蔵がやるというのにはちょっと驚いたけど…
素晴らしいサービス精神!


・発端
北山の岩屋に籠もることになった「鳴神」の発端が描かれる。

ここでの鳴神上人は、日頃歌舞伎十八番で観る「鳴神」での上人の衣装とは違い、美しい袈裟も付けている。
裏切られたと知った時の鳴神上人の表情は、これから何か仕出かしてくれるという予感がしてなかなか良い。


・序幕
善人のフリをした早雲王子が登場。
第一場ではあざとさを出す工夫からの台詞廻しなのだろうが、ちょっと上ずり過ぎる感があった。
また第二幕での花道での引っ込みは、凄みを出す為にライトを落としていたが、スポットの光が足りずに3階席では顔がほとんど見えない。
薄笑いを浮かべたニヒルな表情を作っているようなのに、これでは勿体無いな~。

続いて阿部清行、陰陽師で有名な阿部清明のご先祖様。
「女好き」な設定っていうのが海老蔵には合っているのか(笑)、柔らか味は足りないもののなかなかの風情。
本人も一番楽しそうに演じているように見えた。
女を口説く時の言立てはまるで外郎売のような早口だけど、これって今回だけなのかな。


・二幕目
ここが有名な「毛抜」となる幕。

粂寺弾正は当然お父さんの團十郎に習ったのだろうけれど、口跡がもうそっくり!
大らかさがあり、一番安定した出来だったと思う。
ただ海老蔵の若さ故か、團十郎の弾正だと小姓の秀太郎を口説く場面は、実は弾正の退屈凌ぎのほんのお遊びのような軽さがあるのだが、海老蔵がやると本気で口説いているような生々しさを感じてしまう。
何だか観ていて気恥ずかしい気持ちになってしまった(笑)。

秦秀太郎の春猿、若衆姿がとても似合っているし、弾正に擦り寄られて困った顔にも妙な色気がある。

腰元巻絹の笑三郎、黒い振袖がとても綺麗。
弾正をあしらう場面も落ち着きがあって良いとは思うのだが、弾正が若すぎるので相当年上に見えてしまう。
もう少し若々しい作りにしても良いかな~と思った。


・三幕目
第一場では文屋豊秀の段治郎が、客席に下りて行って行方不明となっている阿部清行を探すのだけれど、この時に通路際の観客の目を見ながら声を掛けているのが面白い。
また場内後方の通路からはその当人の阿部清行の海老蔵まで歩いて来るもんだから、もう一階席は大賑わいだ。

第二場が私の大好きな「鳴神」となっている。
通しってことで短縮ヴァージョンであることは覚悟していたけれど、そうとうカットされているなぁ~と。
まぁ、短くなって観やすくなっているというのもあるとは思うんだけど、芝雀の雲の絶間姫の出来がとても良かっただけに残念な気もする。
御簾が上がって鳴神上人が現れると白い着物の下がぶくぶくだったのが気になる。
下に後の着物を仕込んで着ているのだろうが、これでは行をしている上人のすっきりした印象が無くなってしまうのが残念。
前半では上人の落ち着きを出そうと神妙に頑張っていたが、時々声の調子が不安定になるのが気になる。
絶間姫の仕方話をわくわくしながら聞く姿はとてもいい。
が、酒を勧められる辺りから芝居が雑になってきて、杯に顔を近づけて手を払う仕草も乱暴過ぎて、上人らしさが無くなってしまっていた。
「堕落したというのか~」の台詞ももう少し低音で言って欲しい。
酔い潰れてしまうところは舞台上で顔を客席に向けて四つん這いになっていて、どうやって拵えを変えるのかと思っていたが、消し幕も使わずに僧に囲まれてのものだった。
僧達が居なくなると既にぶっ返っていて、かなり拍子抜け。
やはりぶっ返りの様子を見せるというのも歌舞伎の醍醐味だと思うのだが…
隈取も鼻のところには隈を取っていなくて、すっきりし過ぎて荒事の力強さを感じない。
せっかく荒事の拵えが似合う人なんだから、勿体無い気がする。
柱巻きの見得も足腰が安定しておらず決まらない。
何が一番不満足だったかって、花道での六方もタメがなくアッサリと行ってしまったことだ。
荒事で六方がアッという間というのは、かなり物足りなさが残るんだけど…
まぁ、今日は昼夜公演の夜の部というのもあって、さすがに疲れも出ていたのだろうと思いたい。
あ、いつも「これはなぁ~」と思っていた竜神、今回は見事にでっかくて「これぞ竜神!」という感じで嬉しくなった。

一方、芝雀の雲の絶間姫は素晴らしい出来。
昨年の五月に同じ演舞場でやっていたのを3回も観ていて、その時にも良いとは思っていたが格段の進歩。
まず花道での出からして絶間姫の性根が見える。
恋しい男と一緒になる為には命を賭けてやって来たという固い決意が見えるようだ。
知的かつ何とも可愛らしい絶間姫。
仕方話の話の持って行き方も間や緩急がとても上手く、話を知っている私までどきどきして聞いてしまった(笑)。
また寝入ってしまった上人に深々と頭を下げる姿が美しかった。


・大詰
早雲王子が悪の姿となっての大立廻りを見せてくれる。
梯子を使ってのこの立廻りは、まるで「蘭平物狂」を観ているかのようだ。
花道での大梯子の殺陣はさぞや大変だろうなぁー。
四天と人文字のごとく造ったのは、なんと海老の形(笑)!
さすが海老蔵だ。

幕がいったん閉まってからは「不動」の場へ。
ここが話題の空中浮遊なのだが、正直言ってこれは要らないと思った。
なんだか中途半端な印象で、お金がものすごーくかかっているそうなのにチープな感じがしてしまう。
ここが無い方が芝居としての格が上がったように思えた。

 

色々と書いてはしまったが、ほとんど舞台に出ずっぱりで立廻りまでやるというのは凄い体力だし、海老蔵はとても頑張っていたと思う。
それにつっこみどころは満載ではあったが、楽しめたことも事実だ。
ただやはり五役をひとりでこなすというのは、どうしてもひとつひとつの役が希薄になってしまうように思えたし、どうせなら一番のニンであると思われる早雲王子の悪人ぶりというか、暗躍をもっと膨らませたら良かったのでは思った


 


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コメント 4

タワワ

私は昨日行ってきました。
もうびっくりですね。
まず、松竹座の愛之助の「鳴神」は当然として、父親の弾正もはるかに海老蔵の方が凌駕していました。
これは歌舞伎座の親の助六を見た時も思ったんですが、海老蔵は役の本質になりきれる。
他の役者は、伝えられたの演技を巧くやってるだけだと。
父親の助六からは、実は敵討の大望を抱く五郎だという性根は伝わってきませんでした。
特に弾正はこれまで、左團次が一番嵌ってよろしかったんですが、海老蔵の方が大人の弾正をやれた。これは驚きです。
5役だろうが10役だろうが演じ分けて、初心者にも芝居の筋を伝えようという気合い大したものでした。
彼は歴代の團十郎でも名前の残る役者になるのは間違いないでしょう。[らぶっ]
by タワワ (2008-01-10 06:48) 

愛染かつら

タワワ様

コメント有難うございます。
海老蔵丈は本当に頑張っていましたね。
やはり彼には荒事が似合うと思いました。
見目も麗しかったですし…
彼の演られる助六も拝見したかったです。
100年後に彼はどんな評価を得ているのか、とても知りたいですね。
by 愛染かつら (2008-01-10 17:40) 

mami

愛染かつらさん、こんにちは。
海老ちゃん、頑張ってはいましたよね。
堅苦しく「歌舞伎」と考えずに「海老蔵ワンマンショー」とでも思えばいいのかも(苦笑)。

私も「空中浮遊」は要らないかも、と思いました。期待させられて拍子抜けみたいでしたよねえ。
なんにして海老蔵にはもっともっと精進していただきたいですね。
by mami (2008-01-14 15:05) 

愛染かつら

mami様

こんにちは~。
海老クン、確かに頑張ってはいたと思います。
「ザ・海老蔵ショー」だと思えば、「ああ、楽しかった」って素直に思えましたよ、はい。

あのイリュージョンはねぇ。
ホント、要らないですよ。
あんなことにお金遣って勿体無い…
by 愛染かつら (2008-01-15 14:15) 

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